はじめてのJazz

はじめてジャズを聴こうと思っているあなたへ、モダン・ジャズの名盤を織り交ぜながらジャズ全般を紹介して行きます。

初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.3

マイ・フェイヴァリット・シングス
/ジョン・コルトレーン
MY FAVORITE THINGS
/JOHN COLTRANE

 

■マイ・フェイヴァリット・シングスとはどんな楽曲なのでしょう。

邦題が「私のお気に入り」のこの曲は、ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」(1959年)の挿入歌です。

20世紀最高のミュージカル作家パートナーシップである作曲家リチャード・ロジャースと作詞家オスカー・ハマースタイン2世のミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」からは、この楽曲の他にもタイトル曲「サウンド・オブ・ミュージック」や「ドレミの歌」「エーデルワイス」などの多くの曲がスタンダードになっています。

ロジャース&ハマースタインの作品の多くは世界中で再演され、日本でも東宝ミュージカルや劇団四季などが「サウンド・オブ・ミュージック」を公演しています。

MY FAVORITE THINGS
/WORDS:OSCAR HAMMERSTEIN Ⅱ
MUSIC:RICHARD RODGERS


■マイ・フェイヴァリット・シングスの年譜を見てみましょう。

「サウンド・オブ・ミュージック」のオリジナルブロードウェイ公演の開幕は1959年11月16日ですが、1965年にジュリー・アンドリュース主演で映画化されアカデミー賞5部門を受賞するなど世界的な大ヒットとなりました。


ジャズにおいても映画に先駆け、今回ご紹介する同名タイトルのアルバム「マイ・フェイヴァリット・シングス/ジョン・コルトレーン」に収録されたのが1960年10月21日です。
ワルツ・タイムのこの曲をソプラノ・サックスで演奏し大ヒットしました。
以降、ジョン・コルトレーンの代表曲の一つになりました。

MY FAVORITE THINGS
/JOHN COLTRANE 1960


ヴォーカルでは、1975年にシーラ・ジョーダン(vo)がアルバム「コンファーメーション」に収録しています。

CONFIRMATION
/SHEILA JORDAN 1975


1986年にはジャズ・ギターのソロ演奏で、トゥ・ハンディッド・タッピング奏法のスタンリー・ジョーダン(g)がアルバム「スーパー・スタンダーズ」に収録。

STANDARDS
/STANLEY JORDAN 1986


日本においては1993年、平安建都1200年記念事業に合わせる形で、JR東海が開始したキャンペーン「そうだ京都、行こう」のテレビCMのBGMに使用されました。
そして2018年、25年間そのナレーションを務めた俳優の長塚京三さんが退かれる旨、ご自身がテレビの番組でおっしゃっていました。


ジョン・コルトレーンによるマイ・フェイヴァリット・シングスの演奏内容について。

ジョン・コルトレーンはこのアルバムを収録する前年、マイルス・デイヴィスの歴史的アルバム「カインド・オブ・ブルー」でテナー・サックスを吹いています。
マイルス・デイヴィスは、この時期のジョン・コルトレーンとソニー・ロリンズ(ts)を2大テナー・サックス奏者と評価していたのですが、評価通りにジョン・コルトレーンは既に相当な充実期に入っていました。


コルトレーンは以降も、独自の音楽スタイルの追求と模索を怠ることなく突き進んでいくのですが、それはこの演奏がテナー・サックスではなくソプラノ・サックスで演奏している点でも伺い知れます。
実際には同年6月にトランペット奏者のドン・チェリー(tp)と録音したアルバム「アヴァンギャルド」において、初めてソプラノ・サックスを用いています。

コルトレーンのマイ・フェイヴァリット・シングスの演奏スタイルである"ワルツ・タイム(マイナー・メロディ) + ソプラノ・サックス"は、以降のアルバムでも聴くことができます。
1961年の「アフリカ・ブラス」に収録された「グリーン・スリーヴス」や1965年の「ジョン・コルトレーン・カルテット・プレイズ」に収録された「チム・チム・チェリー」などです。


マイ・フェイヴァリット・シングス/ジョン・コルトレーンは、ジャズ・ヴァージョンにおけるこの楽曲の最高の演奏だと言っても過言ではないと思います。


■マイ・フェイヴァリット・シングスが収録されているアルバムの内容を見てみましょう。

MY FAVORITE THINGS
/JOHN COLTRANE 1960

1.MY FAVORITE THINGS 13:41
2.EVERYTIME WE SAY GOODBY 5:39
3.SUMMERTIME 11:31
4.BUT NOT FOR ME 9:35

PERSONNEL:
JOHN COLTRANE(ts,ss)
McCOY TYNER(p)
STEVE DAVIS(b)
ELVIN JONES(ds)


1962年、ベース奏者のスティーブ・デイヴィスに替りジミー・ギャリソン(b)が加わると、不動のカルテットとして活動します。


■編集後記

ジョン・コルトレーンは1946年にプロ活動を開始し、
ディジー・ガレスピー(tp)→マイルス・デイヴィス(tp)→セロニアス・モンク(p)→マイルス・デイヴィス(tp)
と、異なるグループで演奏しています。

演奏楽器も、デビュー当時はアルト・サックスでしたが、初めてマイルス・デイヴィスのグループに加わった時はテナー・サックス奏者としてでした。
以降は主にテナー・サックス奏者として活動するのですが、1960年に先述のソプラノ・サックスも取り入れるようになります。

コルトレーンは、セロニアス・モンクのグループに加入中の1957年7月、ニューヨークのライブハウス「ファイヴ・スポット」に出演したこの月「神の啓示」があったと語っています。
実際、1957年7月以降の演奏は、何れもジャズの歴史に重要な足跡を残す録音となります。

同年の9月に録音されたアルバム「ブルー・トレイン」は初期の代表作とされる名盤で、いづれはご紹介したいと考えています。


今回の記事でご紹介したマイ・フェイヴァリット・シングスは、1960年に2度目のマイルス・デイヴィス・グループ脱退後の録音です。
後に、フルートを演奏したりフリー・ジャズに傾倒したりと、独自の音楽性の模索に妥協を許しません。
この真摯に楽理の吸収や音楽的修行を継続し続けたことが、コルトレーンをジャズの指導者的地位に押し上げ、また、ジャズの巨人と呼ばれるコルトレーンを形成したと言っても過言ではなさそうです。


先に「フリー・ジャズ」と言う言葉を使いましたが、今、「マイ・フェイヴァリット・シングス/ジョン・コルトレーン」についての記事を書き終えようとしながらも「ジャズ自体の大まかな歴史について述べなければならない」のではと、痛切に感じています。

「初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤」と言うタイトルでVOL.1~VOL.3と書いてきましたが、その切り口での紹介を継続しながら、歴史からの切り口も併せて投稿して行こうと考えます。


ジャズを聴いて、より豊かな人生を歩まれますように。

ご覧いただき、ありがとうございました。

初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.2

ワルツ・フォー・デビイ
/ビル・エヴァンス・トリオ
WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO

 

■ワルツ・フォー・デビイとはどんな楽曲なのでしょう。

日本で最も人気の高い白人ジャズ・ピアニストであるビル・エヴァンス(p)の代表的なオリジナル曲です。
1956年に幼い姪デビイにささげられた可憐なワルツ曲で、自身初のリーダー・アルバム「ニュー・ジャズ・コンセプション」に初収録されています。
また、このアルバムでのこの楽曲は1分20秒程のピアノ・ソロ演奏です。

WALTZ FOR DEBBY
/WORDS:GENE LEES
 MUSIC:BILL EVANS

NEW JAZZ CONCEPTIONS
/BILL EVANS 1956


■ワルツ・フォー・デビイの年譜を見てみましょう。

ビル・エヴァンスが作曲して、1956年に録音したアルバム「ニュー・ジャズ・コンセプション」が最初の収録アルバムとなるのですが、他にも彼の演奏が何枚かのアルバムに収録されています。

1961年のキャノンボール・アダレイ(as)との共演盤「ノウ・ホワット・アイ・ミーン?」や、この記事で推奨する同年のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ・アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」に収録された演奏です。
アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」はスコット・ラファロ(b)とポール・モチアン(ds)を擁したピアノ・トリオの演奏です。

KNOW WHAT I MEAN?
/CANNONBALL ADDERLEY WITH BILL EVANS 1961
WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO 1961


また、スウェーデンのジャズ・ヴォーカリスト、モニカ・ゼタールンド(vo)との共演盤で1964年録音アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」は、ヴォーカル・ヴァージョンにおける最も有名な一枚です。
チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)とのピアノ・トリオです。

WALTZ FOR DEBBY
/MONICA ZETTERLUND WITH BILL EVANS TRIO 1964


ビル・エヴァンス・トリオによるワルツ・フォー・デビイの演奏内容について。

1961年6月25日、ニューヨークのライブ・ハウスであるヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音された演奏が同アルバムとアルバム「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」の2枚に分けて収録されました。

2枚分散の起因になるのは、ライブ録音を終えて11日後の7月6日に、ベーシストのスコット・ラファロ(b)が交通事故に遭って急逝したことです。

リバーサイドのプロデューサーは、よりスコット・ラファロ(b)色が強い演奏をアルバム「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」へ収録し発表しました。
これは結果として、よりビル・エヴァンス色が濃い演奏でアルバム「ワルツ・フォー・デビイ」が収録されたことになります。
とは言え、同アルバムでもスコット・ラファロのベース・ソロを聴くことができるのです。


ビル・エヴァンス色が濃い演奏と先述した通りに、ビル・エヴァンス(p)のピアノを中心にスコット・ラファロ(b)のベースやポール・モチアン(ds)のドラムスが時を刻むように優しく入ってきます。
そして、終盤にはスコット・ラファロのベース・ソロも聴けます。
前奏はワルツ・タイムで演奏され、イン・テンポに入ると4拍子で演奏されています。

この楽曲の最高の演奏であることに、疑念を抱く方は皆無でしょう。


■ワルツ・フォー・デビーが収録されているアルバムの内容を見てみましょう。

WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO 1961

1.MY FOOLISH HEART 4:56
2.WALTZ FOR DEBBY(TAKE 2) 7:00
3.WALTZ FOR DEBBY(TAKE 1) 6:46
4.DETOUR AHEAD(TAKE 2) 7:35
5.DETOUR AHEAD(TAKE 1) 7:05
6.MY ROMANCE(TAKE 1) 7:11
7.MY ROMANCE(TAKE 2) 7:08
8.SOME OTHER TIME 5:02
9.MILESTONES 6:37
10.PORGY(I LOVES YOU,PORGY) 5:57

PERSONNEL:
BILL EVANS(p)
SCOTT LAFARO(b)
PAUL MOTIAN(ds)


当時、いわゆるリズムセクションと呼ばれる楽器(ピアノ、ベース、ドラムスetc.)は、管楽器の伴奏役としてリズムを刻んでいく演奏がおもな役目と考えられていました。
そして、ピアノ・トリオにおいてはピアノが主でベースやドラムスが伴奏役となり、いづれにおいてもベースとドラムスがリズムセクションを超えた演奏をすることは殆どありませんでした。

しかし、ビル・エヴァンス・トリオは3者が相互に干渉し、結果的に本来の即興演奏とは異なる更なる熱気に包まれた即興演奏空間を生み出しました。
具体的にはビル・エヴァンスのインプロビゼーション(アドリブ、即興演奏)に対してスコット・ラファロがインタープレイを行い、ポール・モチアンも本来のリズムを刻むだけにとどまらずインタープレイに及ぶブラシ・ワークを行うなどのスリル感あふれる演奏を展開しました。

先述した2枚分散の1枚目「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」に、この要素がより強く表れた演奏を収めて、スコット・ラファロ追悼盤としたのです。
そして残りのテイクをこの姉妹盤である「ワルツ・フォー・デビー」に収録しました。


このアルバムが録音されて丁度55年後の2016年4月に、日本レコード協会(RIAJ)のゴールドディスクに認定されました。
それまでに日本での売上枚数がLP・CD併せて約50万枚で、国内最大の売上を誇るジャズ・アルバムとなっています。

同年9月28日には、録音55周年&ゴールドディスク認定記念盤のクリスタル・ディスクが発売されましたが、20万円と高価にも関わらず同年中の3ヶ月ほどで50枚が売れるほどの人気アルバムです。


■編集後記

1959年4月、"モダン・ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィス(tp)が歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」を録音します。
ビル・エヴァンスは前年マイルス・デイヴィス・クインテットの一員でしたが、7ヶ月程で脱退しています。
しかし、マイルスからの要請でこのアルバム録音に参加し、「ブルー・イン・グリーン」を提供したりと、ビル・エヴァンスの影響が大きく残るアルバムとなりました。

ビル・エヴァンスは、常に創造的な演奏活動を行い、歴史的アルバムに携わり、優れたインタープレイで歴史的なピアノ・トリオの演奏を聴かせてくれたピアニストです。
今回の記事では、彼の代表的なオリジナル曲をご紹介させていただきました。


先述の歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」の録音でサックスを吹いているのが、前回「初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.1」でご紹介した「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム/マイルス・デイヴィス・セクステット」でのサックス奏者ジョン・コルトレーンです。

マイルス・デイヴィス(tp)、ビル・エヴァンス(p)、ジョン・コルトレーン(ts)は、いづれも「モダン・ジャズの巨人」と称される演奏家です。
それならば、次回はジョン・コルトレーン(ts)のリーダー・アルバムから推奨させていただこうと思います。


ジャズを聴いて、より豊かな人生を歩まれますように。

ご覧いただき、ありがとうございました。

初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.1

サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム
/マイルス・デイヴィス・セクステット
SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS SEXTET


■サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カムとはどんな楽曲なのでしょう。

邦題が「いつか王子様が」のこの曲は、ウォルト・ディズニー制作のアニメ映画「白雪姫」(1937年)の挿入歌です。

映画において白雪姫役の声優アドリアナ・カセロッティがワルツ・タイムに歌ったこの曲は、可憐で清楚なイメージがします。

SOME DAY MY PRINCE WILL COME
/SONG:ADRIANA CASELOTTI
 WORDS:LARRY MOREY
 MUSIC:FRANK CHURCHILL 1937


以来、多くのポピュラー歌手やカントリー歌手が取り上げ、また舞台や映画で歌われていますが、タイトルが"SOME DAY ~"であったり、"SOMEDAY ~"である場合もあるようです。

邦題「いつか王子様が」のイメージは、「漠然とした未来のいつか」の感じを受けるので、"SOMEDAY ~"で良いような気がするのですが、ラリー・モリーの詩では"SOME DAY ~"となっています。これは後に続く詩の中で、王子様がやって来たその日、その特定の日についてもつづられているからだと考えています。

英語を母語話者とする人が実際にどう使い分けているかは関知しておりません。

この記事を書きながら、自身が保有するCDから同タイトルを抜き出した時にかなりのアルバムが抜け落ちているのに気づいたので、参考までに付記しました。


■ジャズにおけるサムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの年譜を見てみましょう。

ジャズにおける早期のレコーディングとしてジョン・ウィリアムス(p)による録音が1955年ですが、広くジャズ・ファンに知れ渡ったのは、1957年に録音されたデイヴ・ブルーベック(p)によるディズニー映画音楽集「デイヴ・ディグス・ディズニー」です。

このアルバムではデイヴ・ブルーベックのピアノ・ソロから始まり、ポール・デスモンド(as)のアルト・サックスが続きます。

THE JOHN WILLIAMS TRIO
/THE JOHN WILLIAMS TRIO 1955
DAVE DIGS DISNEY
/THE DAVE BRUBECK QUARTET 1957


1959年にはビル・エヴァンス(p)が「ポートレイト・イン・ジャズ」というアルバムに収録します。

こちらもビル・エヴァンスのピアノ・ソロから始まりますが、途中からスコット・ラファロ(b)のベース・ソロが聴けます。

そしてドラムスがポール・モチアン(ds)で歴史的ピアノ・トリオの演奏という点でもこの楽曲の必聴盤と言えます。

PORTRAIT IN JAZZ
/BILL EVANS TRIO 1959


そして当記事で一押し推奨する名演が、1961年にマイルス・デイヴィス(tp)が前年に自身のグループを脱退したジョン・コルトレーン(ts)を加えて録音したアルバム「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」に収録されています。

SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS 1961


楽曲サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの名演・名盤を幾つか推奨する時、殆どのジャズ・ファンが上記3アルバムの中から一つは必ず推奨される筈です。


デイヴ・ブルーベック(p)やビル・エヴァンス(p)以外のピアノでは、1979年にハービー・ハンコック(p)のピアノ・ソロ・アルバム「ザ・ピアノ」に収録されます。

さらに、マイルス・デイヴィスのグループでツイン・キーボードとして活躍したチック・コリア(p)とキース・ジャレット(p)も、1986年にキース・ジャレット(p)が「枯葉/キース・ジャレット・スタンダーズ・スティル・ライヴ」に、1989年にはチック・コリア(p)が「チック・コリア・アコースティック・バンド」に収録しています。

THE PIANO
/HERBIE HANCOCK 1979
STILL LIVE
/KEITH JARRETT'S STANDARDS TRIO 1986
CHICK COREA AKOUSTIC BAND
/CHICK COREA AKOUSTIC BAND 1989


ギターでは1957年にバーニー・ケッセル(g)がザ・ポール・ウィナーズ(バーニー・ケッセル(g),シェリー・マン(ds),レイ・ブラウン(b))のトリオ演奏で「ストレート・アヘッド」に、1962年にはグラント・グリーン(g)がソニー・クラーク(p)を加えてのクインテット演奏で「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」に収録しています。

STRAIGHT AHEAD
/THE POLL WINNERS 1957
BORN TO BE BLUE
/GRANT GREEN 1962


ジャズ・ヴォーカルでは1963年にヘレン・メリル(vo)が「ヘレン・メリル・イン・トウキョウ」に、1999年にはカサンドラ・ウィルソン(vo)が「トラヴェリング・マイルス」に収録しています。

HELEN MERRILL IN TOKYO
/HELEN MERRILL 1963
TRAVELING MILES
/CASSANDRA WILSON 1999


■マイルス・デイヴィス・セクステットによるサムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの演奏内容について。

映画では白雪姫役の声優アドリアナ・カセロッティの歌と共にメロディが流れていますが、このアルバムでは歌声がどこからも聞こえてきません。

まず最初に聞こえてくるのが、ベース・ドラムス・ピアノの音です。
いわゆるリズムセクションと言われる楽器です。

すぐにウィントン・ケリー(p)のピアノの音が大きくなり、フロントに飛び出した感じがします。

40秒程続いた後に最初の管楽器トランペットの音が聞こえてきます。
このアルバムのリーダーであるマイルス・デイヴィス(tp)の演奏です、2分30秒程続きます。

そして2つ目の管楽器であるテナー・サックスの音、ハンク・モブレー(ts)の演奏です。

1分程続いた後に再びピアノ→トランペット→テナー・サックスと続くのですが、この2度目のテナー・サックスはジョン・コルトレーン(ts)の演奏です。
この二人のサックス奏者の演奏スタイルの違いも、このアルバムの聴きごたえの一つです。

そしてトランペット→ピアノと続いて終了するのですが、演奏終了後にマイルス・デイヴィスの舌打ちが録音されているのも面白いですね。

ELAPSED TIME
0:00 b,ds,p
0:05 p
0:40 tp
3:10 ts1
4:27 p
5:24 tp
5:53 ts2
7:22 tp
7:46 p
9:03 舌打ち
9:10 END


"モダン・ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィスがリーダーとなって演奏している楽曲は、これから幾度となく紹介する機会があると思いますが、今回はそのなかでもセクステット(6人編成)の楽曲を紹介いたしました。

一般的にセクステットでよくある楽器の組み合わせは、リズムセクション(ピアノ + ベース + ドラムス)に3管(3つの管楽器)を加えた編成内容です。さらにその3管楽器が、トランペット + アルト・サックス + テナーサックスや、トランペット + フルート + テナー・サックスなど、異なる楽器で組み合わせた場合が多いように思われます。

しかしマイルス・デイヴィスはこの楽曲で、トランペット + 2つのテナー・サックスと言う編成をしています。

上記の時間経過毎の楽器を記した際にts1やts2と記したのは、テナー・サックスという同じ楽器でありながら、異なる演奏によって音の感じが全く異なって聴こえる点に気づいていただくためです。

ts1のパートを演奏しているハンク・モブレーも、自身のリーダー・アルバムを何枚も録音している一流のサックス奏者なのですが、ts2のパートを演奏しているジョン・コルトレーンは、テナー・サックス奏者に限らず同時期以降のほとんどのサックス奏者に影響を与えていると思われる程の奏者です。


今後、種々の楽器を多くの異なる演奏家で聴いていかれると思いますが、いつの間にか「この演奏はあの奏者かな?」「あの奏者の演奏ような気がする!」などと、度々感じるようになります。

私はジャズを聴き始めた当初は勿論、数年経ってからも楽曲や演奏によっては、トランペットとサックスの音もしくはアルト・サックスとテナー・サックスの音を明確には識別することができない時もありました。時にはそれぞれの楽器の音を確りと聴くことも重要ではないかと考えています。


この演奏を推奨した大きな理由は、各楽器の演奏のバランスの素晴らしさです。

マイルス・デイヴィスの統率のもとに、各演奏家がバランスを考えて出過ぎることなく、しかも自身の技量を発揮し、全体として本当に素晴らしい演奏になっています。

確かに先述のts2パートのジョン・コルトレーンが最大の盛り上がりを聴かせてくれているように、あくまで個人的には思えるのですが、それでも明らかにバランスを考えて演奏しているのです。それは当時のジョン・コルトレーンが既に相当の域にまで達しているからで、のちの彼自身のアルバムを聴いてみれば、それが頷けると思います。

終演間際にマイルス・デイヴィスが舌打ちしているのですが、個人的には、このセクステットの演奏に対する満足感の彼なりの表現だと解釈しています。
もちろん他の演奏で、彼の舌打ちしを聴いた記憶はありません。


個人的意見を述べさせていただきましたが、まずは細かい部分を気にせずに、楽曲全体の雰囲気を楽しんでいただければと思います。


これまでの記事で、人名に続けて括弧()内に記したアルファベットは楽器の略号です。

b:bass ベース
ds:drums ドラムス
p:piano ピアノ
ts:tenor saxophone テナー・サックス
tp:trumpet トランペット
g:guitar ギター
(vo:vocal ヴォーカル)


■サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムが収録されているアルバムの内容を見てみましょう。

SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS 1961

1.SOMEDAY MY PRINCE WILL COME 9:06
2.OLD FOLKS 5:16
3.PFRANCING 8:32
4.DRAD-DOG 4:30
5.TEO 9:35
6.I THOUGHT ABOUT YOU 4:30

PERSONNEL:
MILES DAVIS(tp)
JOHN COLTRANE(ts)
HANK MOBLEY(ts)
WYNTON KELLY(p)
PAUL CHAMBERS(b)
JIMMY COBB(ds)


アルバム内容の記述は、まず第1行目にアルバムタイトル、"/"に続けて演奏リーダーもしくはアルバム・クレッジトの保有者、そして空白に続けて録音年を記しています。

続いて項番毎にアルバム収録の楽曲タイトルと演奏時間を記しています。
ジャズの場合、同じ楽曲タイトルが別テイクとして複数回収録されることがあるのですが、それらはあくまで異なる演奏ですので演奏時間も微妙に異なってきます。

最後にパーソネルとして、演奏メンバーとその演奏楽器を記しています。


■編集後記

初めてジャズを聴こうとした時に、一体どのような楽曲やアルバムを聴けば良いのかと戸惑うこともあるのではないでしょうか。


私の場合は、「ジャズって何?」「これってジャズ?」「これ、ジャズだよね?」とクラシックでもなく、明らかにロックでもなさそうなものに対して思ったものでした。

しかし、楽団などのビッグ・バンド編成で演奏している楽曲もあれば、トリオなどの3人編成で演奏している楽曲もあります。さらには、賑やかであったり、抒情的であったり、エネルギッシュと感じる演奏もあり、「一体全体、ジャズって何なの?」と思ったものでした。

私が初めて意識してジャズを聴いたのは、ジャズ・ファンの友人がカセットテープに録音してくれた10曲程でした。40年以上も昔の事ではっきりと全ての楽曲を覚えているわけではないのですが、以下のタイトルが入っていたことは覚えています。

TAKE THE "A" TRAIN
    /DUKE ELLINGTON(p) 1941
A NIGHT IN TUNISIA
    /THE QUINTET:
  DIZZY GILLESPIE(tp),
  CHARLIE PARKER(as),
  BUD POWELL(p),
  CHARLES MINGUS(b),
  MAX ROACH(ds) 1953
ST.THOMAS
    /SONNY ROLLINS(ts) 1956
YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO
    /ART PEPPER(as) 1957
COOL STRUTTIN'
    /SONNY CLARK(p) 1958
AUTUMN LEAVES
    /CANNONBALL ADDERLEY(as) 1958
MOANIN'
    /ART BLAKEY(ds) 1958
 etc.

このカセットテープを繰り返し聴いていると、限られた楽曲の中でお気に入りが変動していくことに気づきました。また当初、敬遠していた楽曲が良く思えてくることもありました。

数か月に渡って繰り返し聴いていると個々の演奏者の他の演奏を聴いてみたいと思い、雑誌や書籍などから情報を得てより多く推奨されているアルバムを収集して行きました。

そうして気づいたのが、同じ楽曲を異なる演奏者が演奏していることや、また、同一の演奏者が同一の楽曲を年月を隔ててアルバム収録している時に、その演奏内容が変化していることです。特に複数回演奏している場合は、異なる編成で演奏していることが多々あります。

つまりジャズは時代によって種々の演奏スタイルがあり、また、演奏者自身の演奏スタイルも変化していくのです。

以上のことから、ジャズの大まかな歴史やジャズに関連する用語なども理解することで、より深くジャズを愉しむことができる気がしています。


長い期間をジャズを聴きながら過ごして来て初めてジャズと出会った頃を振り返ると、ある程度の年月を経て出会った名曲・名盤・名演で初めてジャズと出会った頃に聴いた方が良いのではないかと思える楽曲がいくつもあります。
また、逆にある程度の知識を持って聴いていれば、スムーズに受け入れられたのではないかと思える楽曲もあります。

ジャズと共に長い期間を過ごした今だから、「初めてジャズをお聴きになる方」にこそ聴いていただきたい楽曲を、推奨できるのではないかと考えています。


「初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤」と題した第1回目に、より多くの方がご存知の楽曲「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」からジャズのひとつの演奏スタイルとして「マイルス・デイヴィス・セクステット」の演奏を推奨させていただきました。

今後、第2回、第3回~とご紹介しながら、併せて「ジャズの歴史」や「ジャズの用語」などの記事も投稿して行きたいと考えています。


ジャズを聴いて、より豊かな人生を歩まれますように。

ご覧いただき、ありがとうございました。