はじめてのJazz

はじめてジャズを聴こうと思っているあなたへ、モダン・ジャズの名盤を織り交ぜながらジャズ全般を紹介して行きます。

初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.2

ワルツ・フォー・デビイ
/ビル・エヴァンス・トリオ
WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO

 

■ワルツ・フォー・デビイとはどんな楽曲なのでしょう。

日本で最も人気の高い白人ジャズ・ピアニストであるビル・エヴァンス(p)の代表的なオリジナル曲です。
1956年に幼い姪デビイにささげられた可憐なワルツ曲で、自身初のリーダー・アルバム「ニュー・ジャズ・コンセプション」に初収録されています。
また、このアルバムでのこの楽曲は1分20秒程のピアノ・ソロ演奏です。

WALTZ FOR DEBBY
/WORDS:GENE LEES
 MUSIC:BILL EVANS

NEW JAZZ CONCEPTIONS
/BILL EVANS 1956


■ワルツ・フォー・デビイの年譜を見てみましょう。

ビル・エヴァンスが作曲して、1956年に録音したアルバム「ニュー・ジャズ・コンセプション」が最初の収録アルバムとなるのですが、他にも彼の演奏が何枚かのアルバムに収録されています。

1961年のキャノンボール・アダレイ(as)との共演盤「ノウ・ホワット・アイ・ミーン?」や、この記事で推奨する同年のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ・アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」に収録された演奏です。
アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」はスコット・ラファロ(b)とポール・モチアン(ds)を擁したピアノ・トリオの演奏です。

KNOW WHAT I MEAN?
/CANNONBALL ADDERLEY WITH BILL EVANS 1961
WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO 1961


また、スウェーデンのジャズ・ヴォーカリスト、モニカ・ゼタールンド(vo)との共演盤で1964年録音アルバム「ワルツ・フォー・デビイ」は、ヴォーカル・ヴァージョンにおける最も有名な一枚です。
チャック・イスラエル(b)、ラリー・バンカー(ds)とのピアノ・トリオです。

WALTZ FOR DEBBY
/MONICA ZETTERLUND WITH BILL EVANS TRIO 1964


ビル・エヴァンス・トリオによるワルツ・フォー・デビイの演奏内容について。

1961年6月25日、ニューヨークのライブ・ハウスであるヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音された演奏が同アルバムとアルバム「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」の2枚に分けて収録されました。

2枚分散の起因になるのは、ライブ録音を終えて11日後の7月6日に、ベーシストのスコット・ラファロ(b)が交通事故に遭って急逝したことです。

リバーサイドのプロデューサーは、よりスコット・ラファロ(b)色が強い演奏をアルバム「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」へ収録し発表しました。
これは結果として、よりビル・エヴァンス色が濃い演奏でアルバム「ワルツ・フォー・デビイ」が収録されたことになります。
とは言え、同アルバムでもスコット・ラファロのベース・ソロを聴くことができるのです。


ビル・エヴァンス色が濃い演奏と先述した通りに、ビル・エヴァンス(p)のピアノを中心にスコット・ラファロ(b)のベースやポール・モチアン(ds)のドラムスが時を刻むように優しく入ってきます。
そして、終盤にはスコット・ラファロのベース・ソロも聴けます。
前奏はワルツ・タイムで演奏され、イン・テンポに入ると4拍子で演奏されています。

この楽曲の最高の演奏であることに、疑念を抱く方は皆無でしょう。


■ワルツ・フォー・デビーが収録されているアルバムの内容を見てみましょう。

WALTZ FOR DEBBY
/BILL EVANS TRIO 1961

1.MY FOOLISH HEART 4:56
2.WALTZ FOR DEBBY(TAKE 2) 7:00
3.WALTZ FOR DEBBY(TAKE 1) 6:46
4.DETOUR AHEAD(TAKE 2) 7:35
5.DETOUR AHEAD(TAKE 1) 7:05
6.MY ROMANCE(TAKE 1) 7:11
7.MY ROMANCE(TAKE 2) 7:08
8.SOME OTHER TIME 5:02
9.MILESTONES 6:37
10.PORGY(I LOVES YOU,PORGY) 5:57

PERSONNEL:
BILL EVANS(p)
SCOTT LAFARO(b)
PAUL MOTIAN(ds)


当時、いわゆるリズムセクションと呼ばれる楽器(ピアノ、ベース、ドラムスetc.)は、管楽器の伴奏役としてリズムを刻んでいく演奏がおもな役目と考えられていました。
そして、ピアノ・トリオにおいてはピアノが主でベースやドラムスが伴奏役となり、いづれにおいてもベースとドラムスがリズムセクションを超えた演奏をすることは殆どありませんでした。

しかし、ビル・エヴァンス・トリオは3者が相互に干渉し、結果的に本来の即興演奏とは異なる更なる熱気に包まれた即興演奏空間を生み出しました。
具体的にはビル・エヴァンスのインプロビゼーション(アドリブ、即興演奏)に対してスコット・ラファロがインタープレイを行い、ポール・モチアンも本来のリズムを刻むだけにとどまらずインタープレイに及ぶブラシ・ワークを行うなどのスリル感あふれる演奏を展開しました。

先述した2枚分散の1枚目「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」に、この要素がより強く表れた演奏を収めて、スコット・ラファロ追悼盤としたのです。
そして残りのテイクをこの姉妹盤である「ワルツ・フォー・デビー」に収録しました。


このアルバムが録音されて丁度55年後の2016年4月に、日本レコード協会(RIAJ)のゴールドディスクに認定されました。
それまでに日本での売上枚数がLP・CD併せて約50万枚で、国内最大の売上を誇るジャズ・アルバムとなっています。

同年9月28日には、録音55周年&ゴールドディスク認定記念盤のクリスタル・ディスクが発売されましたが、20万円と高価にも関わらず同年中の3ヶ月ほどで50枚が売れるほどの人気アルバムです。


■編集後記

1959年4月、"モダン・ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィス(tp)が歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」を録音します。
ビル・エヴァンスは前年マイルス・デイヴィス・クインテットの一員でしたが、7ヶ月程で脱退しています。
しかし、マイルスからの要請でこのアルバム録音に参加し、「ブルー・イン・グリーン」を提供したりと、ビル・エヴァンスの影響が大きく残るアルバムとなりました。

ビル・エヴァンスは、常に創造的な演奏活動を行い、歴史的アルバムに携わり、優れたインタープレイで歴史的なピアノ・トリオの演奏を聴かせてくれたピアニストです。
今回の記事では、彼の代表的なオリジナル曲をご紹介させていただきました。


先述の歴史的名盤「カインド・オブ・ブルー」の録音でサックスを吹いているのが、前回「初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.1」でご紹介した「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム/マイルス・デイヴィス・セクステット」でのサックス奏者ジョン・コルトレーンです。

マイルス・デイヴィス(tp)、ビル・エヴァンス(p)、ジョン・コルトレーン(ts)は、いづれも「モダン・ジャズの巨人」と称される演奏家です。
それならば、次回はジョン・コルトレーン(ts)のリーダー・アルバムから推奨させていただこうと思います。


ジャズを聴いて、より豊かな人生を歩まれますように。

ご覧いただき、ありがとうございました。