はじめてのJazz

はじめてジャズを聴こうと思っているあなたへ、モダン・ジャズの名盤を織り交ぜながらジャズ全般を紹介して行きます。

初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤 VOL.1

サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム
/マイルス・デイヴィス・セクステット
SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS SEXTET


■サム・デイ・マイ・プリンス・ウィル・カムとはどんな楽曲なのでしょう。

邦題が「いつか王子様が」のこの曲は、ウォルト・ディズニー制作のアニメ映画「白雪姫」(1937年)の挿入歌です。

映画において白雪姫役の声優アドリアナ・カセロッティがワルツ・タイムに歌ったこの曲は、可憐で清楚なイメージがします。

SOME DAY MY PRINCE WILL COME
/SONG:ADRIANA CASELOTTI
 WORDS:LARRY MOREY
 MUSIC:FRANK CHURCHILL 1937


以来、多くのポピュラー歌手やカントリー歌手が取り上げ、また舞台や映画で歌われていますが、タイトルが"SOME DAY ~"であったり、"SOMEDAY ~"である場合もあるようです。

邦題「いつか王子様が」のイメージは、「漠然とした未来のいつか」の感じを受けるので、"SOMEDAY ~"で良いような気がするのですが、ラリー・モリーの詩では"SOME DAY ~"となっています。これは後に続く詩の中で、王子様がやって来たその日、その特定の日についてもつづられているからだと考えています。

英語を母語話者とする人が実際にどう使い分けているかは関知しておりません。

この記事を書きながら、自身が保有するCDから同タイトルを抜き出した時にかなりのアルバムが抜け落ちているのに気づいたので、参考までに付記しました。


■ジャズにおけるサムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの年譜を見てみましょう。

ジャズにおける早期のレコーディングとしてジョン・ウィリアムス(p)による録音が1955年ですが、広くジャズ・ファンに知れ渡ったのは、1957年に録音されたデイヴ・ブルーベック(p)によるディズニー映画音楽集「デイヴ・ディグス・ディズニー」です。

このアルバムではデイヴ・ブルーベックのピアノ・ソロから始まり、ポール・デスモンド(as)のアルト・サックスが続きます。

THE JOHN WILLIAMS TRIO
/THE JOHN WILLIAMS TRIO 1955
DAVE DIGS DISNEY
/THE DAVE BRUBECK QUARTET 1957


1959年にはビル・エヴァンス(p)が「ポートレイト・イン・ジャズ」というアルバムに収録します。

こちらもビル・エヴァンスのピアノ・ソロから始まりますが、途中からスコット・ラファロ(b)のベース・ソロが聴けます。

そしてドラムスがポール・モチアン(ds)で歴史的ピアノ・トリオの演奏という点でもこの楽曲の必聴盤と言えます。

PORTRAIT IN JAZZ
/BILL EVANS TRIO 1959


そして当記事で一押し推奨する名演が、1961年にマイルス・デイヴィス(tp)が前年に自身のグループを脱退したジョン・コルトレーン(ts)を加えて録音したアルバム「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」に収録されています。

SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS 1961


楽曲サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの名演・名盤を幾つか推奨する時、殆どのジャズ・ファンが上記3アルバムの中から一つは必ず推奨される筈です。


デイヴ・ブルーベック(p)やビル・エヴァンス(p)以外のピアノでは、1979年にハービー・ハンコック(p)のピアノ・ソロ・アルバム「ザ・ピアノ」に収録されます。

さらに、マイルス・デイヴィスのグループでツイン・キーボードとして活躍したチック・コリア(p)とキース・ジャレット(p)も、1986年にキース・ジャレット(p)が「枯葉/キース・ジャレット・スタンダーズ・スティル・ライヴ」に、1989年にはチック・コリア(p)が「チック・コリア・アコースティック・バンド」に収録しています。

THE PIANO
/HERBIE HANCOCK 1979
STILL LIVE
/KEITH JARRETT'S STANDARDS TRIO 1986
CHICK COREA AKOUSTIC BAND
/CHICK COREA AKOUSTIC BAND 1989


ギターでは1957年にバーニー・ケッセル(g)がザ・ポール・ウィナーズ(バーニー・ケッセル(g),シェリー・マン(ds),レイ・ブラウン(b))のトリオ演奏で「ストレート・アヘッド」に、1962年にはグラント・グリーン(g)がソニー・クラーク(p)を加えてのクインテット演奏で「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」に収録しています。

STRAIGHT AHEAD
/THE POLL WINNERS 1957
BORN TO BE BLUE
/GRANT GREEN 1962


ジャズ・ヴォーカルでは1963年にヘレン・メリル(vo)が「ヘレン・メリル・イン・トウキョウ」に、1999年にはカサンドラ・ウィルソン(vo)が「トラヴェリング・マイルス」に収録しています。

HELEN MERRILL IN TOKYO
/HELEN MERRILL 1963
TRAVELING MILES
/CASSANDRA WILSON 1999


■マイルス・デイヴィス・セクステットによるサムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムの演奏内容について。

映画では白雪姫役の声優アドリアナ・カセロッティの歌と共にメロディが流れていますが、このアルバムでは歌声がどこからも聞こえてきません。

まず最初に聞こえてくるのが、ベース・ドラムス・ピアノの音です。
いわゆるリズムセクションと言われる楽器です。

すぐにウィントン・ケリー(p)のピアノの音が大きくなり、フロントに飛び出した感じがします。

40秒程続いた後に最初の管楽器トランペットの音が聞こえてきます。
このアルバムのリーダーであるマイルス・デイヴィス(tp)の演奏です、2分30秒程続きます。

そして2つ目の管楽器であるテナー・サックスの音、ハンク・モブレー(ts)の演奏です。

1分程続いた後に再びピアノ→トランペット→テナー・サックスと続くのですが、この2度目のテナー・サックスはジョン・コルトレーン(ts)の演奏です。
この二人のサックス奏者の演奏スタイルの違いも、このアルバムの聴きごたえの一つです。

そしてトランペット→ピアノと続いて終了するのですが、演奏終了後にマイルス・デイヴィスの舌打ちが録音されているのも面白いですね。

ELAPSED TIME
0:00 b,ds,p
0:05 p
0:40 tp
3:10 ts1
4:27 p
5:24 tp
5:53 ts2
7:22 tp
7:46 p
9:03 舌打ち
9:10 END


"モダン・ジャズの帝王”と呼ばれるマイルス・デイヴィスがリーダーとなって演奏している楽曲は、これから幾度となく紹介する機会があると思いますが、今回はそのなかでもセクステット(6人編成)の楽曲を紹介いたしました。

一般的にセクステットでよくある楽器の組み合わせは、リズムセクション(ピアノ + ベース + ドラムス)に3管(3つの管楽器)を加えた編成内容です。さらにその3管楽器が、トランペット + アルト・サックス + テナーサックスや、トランペット + フルート + テナー・サックスなど、異なる楽器で組み合わせた場合が多いように思われます。

しかしマイルス・デイヴィスはこの楽曲で、トランペット + 2つのテナー・サックスと言う編成をしています。

上記の時間経過毎の楽器を記した際にts1やts2と記したのは、テナー・サックスという同じ楽器でありながら、異なる演奏によって音の感じが全く異なって聴こえる点に気づいていただくためです。

ts1のパートを演奏しているハンク・モブレーも、自身のリーダー・アルバムを何枚も録音している一流のサックス奏者なのですが、ts2のパートを演奏しているジョン・コルトレーンは、テナー・サックス奏者に限らず同時期以降のほとんどのサックス奏者に影響を与えていると思われる程の奏者です。


今後、種々の楽器を多くの異なる演奏家で聴いていかれると思いますが、いつの間にか「この演奏はあの奏者かな?」「あの奏者の演奏ような気がする!」などと、度々感じるようになります。

私はジャズを聴き始めた当初は勿論、数年経ってからも楽曲や演奏によっては、トランペットとサックスの音もしくはアルト・サックスとテナー・サックスの音を明確には識別することができない時もありました。時にはそれぞれの楽器の音を確りと聴くことも重要ではないかと考えています。


この演奏を推奨した大きな理由は、各楽器の演奏のバランスの素晴らしさです。

マイルス・デイヴィスの統率のもとに、各演奏家がバランスを考えて出過ぎることなく、しかも自身の技量を発揮し、全体として本当に素晴らしい演奏になっています。

確かに先述のts2パートのジョン・コルトレーンが最大の盛り上がりを聴かせてくれているように、あくまで個人的には思えるのですが、それでも明らかにバランスを考えて演奏しているのです。それは当時のジョン・コルトレーンが既に相当の域にまで達しているからで、のちの彼自身のアルバムを聴いてみれば、それが頷けると思います。

終演間際にマイルス・デイヴィスが舌打ちしているのですが、個人的には、このセクステットの演奏に対する満足感の彼なりの表現だと解釈しています。
もちろん他の演奏で、彼の舌打ちしを聴いた記憶はありません。


個人的意見を述べさせていただきましたが、まずは細かい部分を気にせずに、楽曲全体の雰囲気を楽しんでいただければと思います。


これまでの記事で、人名に続けて括弧()内に記したアルファベットは楽器の略号です。

b:bass ベース
ds:drums ドラムス
p:piano ピアノ
ts:tenor saxophone テナー・サックス
tp:trumpet トランペット
g:guitar ギター
(vo:vocal ヴォーカル)


■サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カムが収録されているアルバムの内容を見てみましょう。

SOMEDAY MY PRINCE WILL COME
/MILES DAVIS 1961

1.SOMEDAY MY PRINCE WILL COME 9:06
2.OLD FOLKS 5:16
3.PFRANCING 8:32
4.DRAD-DOG 4:30
5.TEO 9:35
6.I THOUGHT ABOUT YOU 4:30

PERSONNEL:
MILES DAVIS(tp)
JOHN COLTRANE(ts)
HANK MOBLEY(ts)
WYNTON KELLY(p)
PAUL CHAMBERS(b)
JIMMY COBB(ds)


アルバム内容の記述は、まず第1行目にアルバムタイトル、"/"に続けて演奏リーダーもしくはアルバム・クレッジトの保有者、そして空白に続けて録音年を記しています。

続いて項番毎にアルバム収録の楽曲タイトルと演奏時間を記しています。
ジャズの場合、同じ楽曲タイトルが別テイクとして複数回収録されることがあるのですが、それらはあくまで異なる演奏ですので演奏時間も微妙に異なってきます。

最後にパーソネルとして、演奏メンバーとその演奏楽器を記しています。


■編集後記

初めてジャズを聴こうとした時に、一体どのような楽曲やアルバムを聴けば良いのかと戸惑うこともあるのではないでしょうか。


私の場合は、「ジャズって何?」「これってジャズ?」「これ、ジャズだよね?」とクラシックでもなく、明らかにロックでもなさそうなものに対して思ったものでした。

しかし、楽団などのビッグ・バンド編成で演奏している楽曲もあれば、トリオなどの3人編成で演奏している楽曲もあります。さらには、賑やかであったり、抒情的であったり、エネルギッシュと感じる演奏もあり、「一体全体、ジャズって何なの?」と思ったものでした。

私が初めて意識してジャズを聴いたのは、ジャズ・ファンの友人がカセットテープに録音してくれた10曲程でした。40年以上も昔の事ではっきりと全ての楽曲を覚えているわけではないのですが、以下のタイトルが入っていたことは覚えています。

TAKE THE "A" TRAIN
    /DUKE ELLINGTON(p) 1941
A NIGHT IN TUNISIA
    /THE QUINTET:
  DIZZY GILLESPIE(tp),
  CHARLIE PARKER(as),
  BUD POWELL(p),
  CHARLES MINGUS(b),
  MAX ROACH(ds) 1953
ST.THOMAS
    /SONNY ROLLINS(ts) 1956
YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO
    /ART PEPPER(as) 1957
COOL STRUTTIN'
    /SONNY CLARK(p) 1958
AUTUMN LEAVES
    /CANNONBALL ADDERLEY(as) 1958
MOANIN'
    /ART BLAKEY(ds) 1958
 etc.

このカセットテープを繰り返し聴いていると、限られた楽曲の中でお気に入りが変動していくことに気づきました。また当初、敬遠していた楽曲が良く思えてくることもありました。

数か月に渡って繰り返し聴いていると個々の演奏者の他の演奏を聴いてみたいと思い、雑誌や書籍などから情報を得てより多く推奨されているアルバムを収集して行きました。

そうして気づいたのが、同じ楽曲を異なる演奏者が演奏していることや、また、同一の演奏者が同一の楽曲を年月を隔ててアルバム収録している時に、その演奏内容が変化していることです。特に複数回演奏している場合は、異なる編成で演奏していることが多々あります。

つまりジャズは時代によって種々の演奏スタイルがあり、また、演奏者自身の演奏スタイルも変化していくのです。

以上のことから、ジャズの大まかな歴史やジャズに関連する用語なども理解することで、より深くジャズを愉しむことができる気がしています。


長い期間をジャズを聴きながら過ごして来て初めてジャズと出会った頃を振り返ると、ある程度の年月を経て出会った名曲・名盤・名演で初めてジャズと出会った頃に聴いた方が良いのではないかと思える楽曲がいくつもあります。
また、逆にある程度の知識を持って聴いていれば、スムーズに受け入れられたのではないかと思える楽曲もあります。

ジャズと共に長い期間を過ごした今だから、「初めてジャズをお聴きになる方」にこそ聴いていただきたい楽曲を、推奨できるのではないかと考えています。


「初めてジャズを聴くなら、このモダン・ジャズの名曲・名演・名盤」と題した第1回目に、より多くの方がご存知の楽曲「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」からジャズのひとつの演奏スタイルとして「マイルス・デイヴィス・セクステット」の演奏を推奨させていただきました。

今後、第2回、第3回~とご紹介しながら、併せて「ジャズの歴史」や「ジャズの用語」などの記事も投稿して行きたいと考えています。


ジャズを聴いて、より豊かな人生を歩まれますように。

ご覧いただき、ありがとうございました。